タイトル: 『モーヴァン
      (原題“Morvern Callar”)
監督: リン・ラムジー
主演: サマンサ・モートン

製作年/国: 2002年/イギリス

 ハンドルネーム;"yoko"

■ ストーリー
スコットランドの小さな港町にあるスーパーマーケットで働く21歳の女の子、モーヴァン。クリスマスの朝、自宅のキッチンで恋人が手首を切って自殺した。点滅するクリスマスツリーの弱々しい光の中、モーヴァンは泣き崩れるわけでもなく誰かに連絡するわけでもなく、ただその現実を受け入れるべくひっそりと恋人の隣に横たわっていた。彼の遺書には「ごめん。自殺は理屈じゃないんだ。愛してる。勇気を持て」という言葉。クリスマスプレゼントとして革ジャン、金のライター、ウォークマン、“Music for You”と題されたカセットテープが残されていた。そして、パソコンの中には、書き上げられたばかりの小説と「僕の小説を出版社に送ってくれ。君のために書いた」という指示が。彼の最後のメッセージを受け取ったモーヴァンは、著者名を自分の名前に書き換えて出版社に送りつけた。これを機に彼女の人生が大きく変わることとなる・・・。

■ モーヴァン像
モーヴァンは自分の感情をほとんど口に出さず、何を考えているのかわからない女の子、といった印象。(←心理描写がほとんどないので想像しながら見なくちゃならない)彼女は少し変わったモラル観と世界に対する独自の視点、そして、自分の心の声に正直に生きる行動力を持った現代的なヒロイン。自分の価値観と直感を信じ、静かな眼差しで本当に大切なものだけを見つめている。厳しい現実を悲観したりはしない。甘えない。泣かない。惑わされない。嘘はつかない。孤独を引き受け、淡々と大胆に生きていく。悲劇的な状況の中でもチャンスをつかみとる強さの一方で、傷つきやすく繊細な心の持ち主。彼女に勇気を与えたのは恋人の残した1本のミュージックテープ。

■ ミュージックテープ
このテープに収められた楽曲はものすごーく重要。作品中の音楽のほとんどが、モーヴァンのヘッドホンを通して聞こえてくる。この映画のサウンド・トラックであると同時に、彼女と恋人の親密な関係を語る唯一のヴォイスオーバーのようなもの。(←恋人の思い出話や回想シーンは一切出てこない)また、彼のお金でスペイン旅行を計画するのも、彼の遺体をバラバラに切り刻んで小高い丘に埋めるのも、出版社との契約をまとめるのも、彼のミュージックテープがあったからこそ、彼女は勇気を得て行動することができるのだ。その大胆な行動は彼の遺志を裏切り、侮辱しているように思えるけど、最後に彼のレコードやテープをごっそりまとめて旅に出るモーヴァンは、やはり彼を愛し、彼が聞いていた音楽に心酔していることに違いはない。彼の遺体を“始末”する場面も残酷で猟奇的なはずなんだけど、なぜだか2人の別れの儀式のようで、そこには恋人を失った悲しみがあったりする。これも、ヘッドホンから流れるサウンドのせいでしょう。

■ 太陽の国スペイン
つまらない日常から逃げ出すために訪れたスペインは、太陽が燦々と降り注ぎ、乾いた風が吹き抜ける開放的な空間。しかしそこにあるのは、酒、ドラッグ、セックス、いつものバカ騒ぎ。どこへ行っても刹那的な快楽を求める人々が集う場所は空虚・堕落・無意味だね。行き先も決めずにリゾート地を離れ、美しい場所を求めて田舎道をひたすら進むモーヴァンには、まるで真の自分探しの旅に出るかのような強い意志が見える。逆境を楽しんでるような。偶然に出くわした田舎町の祭りに人々の生命力を感じ、辿り着いたのは人も建物も見当たらない真っすぐな一本道、それは本当に美しい光景。恋人に死なれ、親友が恋人と浮気していたことを知り、仕事だって割に合わない。失うものは何もないモーヴァンがそこで何かを悟る。だんだんと生き返っていくような不思議な感じ。

 

■ 対照的な親友
戻ってきたスコットランドで出版社との契約金10万ポンドという大金を手にしたモーヴァンは、新たな旅に出る。もうこの街には戻ってこない。彼女の決意とは相反する「わたしは今のままで満足。ここには仲間もいる。どこに行ったって同じよ。夢を見るのはやめて」という親友の意見の方がより現実的でわかりやすい。観客も思わずうなづいちゃうんじゃないの。彼女は退屈な仕事に甘んじながら、週末のパーティーだけを楽しみに生きる快楽主義的な女の子。楽しい時も機嫌が悪い時も素直に感情を表現できる。対照的な2人が親友同士である設定はありがちだけど、実際、その通りだと思う。正反対な性格であるからこそ、引きつけあうことがあるんだよね。モーヴァンと親友は別々の人生を歩み始めるけど、強い絆で結ばれている(と願う)。はっきり言って、モーヴァンに共感できる人は少ないと思う。だってかなりぶっとんでるもん、この子。でも、内に秘めた強さだとか、真っすぐな眼差しだとか、わたしを魅了する。

■ 女は強くあらねば
恋人が自殺したのは、小説家としての死後の名声を得ようとする自作自演的な行動だったのでは。自分が死んだ後に小説が出版され、伝説の作家として記憶されたかったのかも。けど、モーヴァンにとっては、彼の名声も自分の名声もどうでもいい。誰が小説を書いたかなんてどうでもいい。ただ、くだらない日常から抜け出すためのちょうどいいチャンスだっただけ。死んだ人間よりも、一生懸命生きようとしている人間の方が、価値があるはず。負けてなんかいられない。『女は強くあらねば』←コレに尽きる。

   

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